狐、また降雪

 野生の狐に出會(でくは)しました。
 8日の夜、友人のNさんに車で温泉錢湯に連れて行つていたゞき、10時半過ぎに戻ると駐車場脇の畑で動くものを見かけました。此の邊りを繩張りとする猫が三匹ほどゐますが彼らよりは大型、犬(シェパード系)の體型ながら其れらに比べればずつと細身で然も尾がふさふさとしてゐる……。車の窓越しに見たのですが、夜目とは申せ、3週間餘前の殘雪の上にゐたので見間違へる筈はありません。ほゞ同時に聲を發して「狐!」「狐ですね」。暫し、此方を視てゐましたが、私たちが車を駐めると、もう闇の中に消えてゐました。多摩動物公園などで見たことはありますが、野生の本土狐を目にしたのは初めてです。Nさんも見かけたことは無いさうで、曰く「川に棲んでるのかなぁ」
 後日、ご近所のSさんと顔を合せた折、些か得意げに「狐を見ましたよ」と申しましたら、御本人は出會したことは無いさうですが、「よく出没するらしいですよ」と意外な御返答、徒歩3分くらゐの所に燒鳥屋があるのですが、Sさんは時々飲みに出かける由にて、或る宵、店の人が「猫が子を産むと、千曲川の河川敷から狐がやつてきて、喰ひついたりする」と語つたとのことであります。

 狐を見かけた翌日は宵から未明にかけて大雪となりましたが、濕り氣味だつたやうで、陽射しを受けるや大方は溶け去りました。俗に《狐の嫁入り》と稱へる日照雨を「戯=そばへ」と申しますが、そんな事を想ひ起した朝でありました。

 明け方の東山

 狐を見かけた駐車場の畑