魅惑の映像*東映初期時代劇《中村錦之助 vs 東千代之介》
初めて觀た映畫が何であつたか、全く思ひ出せませんが、初めて夢中にさせられた映畫はよく憶えてゐます。1954年封切、東映製作の時代劇『笛吹童子』三部作であります。これは北村壽夫(ひさを)の少年向け伝奇小説《新諸國物語》シリーズの第二篇で、一年間雜誌に連載されると同時にNHKラジオで連續放送劇として毎日放送されたものが、完結を見るや即ち映畫化された……とは、も少し成長してから得た情報です。何しろ當時の私は7歳だつたのですから、第一部を觀て忽ち、苛酷な運命に翻弄されるポニーテールの綺麗なお兄さんたち(萩丸・菊丸兄弟)の映像の虜になつてしまつたのであります。萩丸を演じた東千代之介は日本舞踊の世界から、菊丸(主人公)に扮した中村錦之助(後に萬屋錦之介と改名)は歌舞伎の世界から映畫に轉じた俳優で、當時の時代劇大スター(長谷川一夫・阪東妻三郎・片岡千恵蔵・市川右太衛門など)には無い匂ふやうな若さを具へ持つてゐました。
『笛吹童子』が大ヒットしたので、〈ジャリ向け映畫〉などと揶揄されながらも、同じ年のうちに此の二人を主演に据ゑた『里見八犬傳』五部作が製作公開され、年末から正月にかけて《新諸國物語》第三篇『紅孔雀』五部作が公開されるに及んで彼らの人氣は頂點に達した觀があります。二人の共演作はその後も『七つの誓い』『ヒマラヤの魔王』『羅生門の妖鬼』などが公開されましたが、私としては『八犬傳』と『紅孔雀』に愛着があります。
VIDEO時代が到來するや此らの映畫は簡單にTV畫面で觀られるやうになり、あまりにも御都合主義な展開に、5分に一度はツッコミを入れたくなりますが、芳流閣の格鬪場面や浮寢島での對決場面などに差しかゝると、ついうつとりと眺め入つてしまひます。『紅孔雀』の配役などは今でも空で言へますが、こんなことは何の自慢にもなりませんね。