BEAUTY ALBUM 大女優篇Ⅱ*歐州篇1北歐
二ヶ月ぶりの《大女優篇》、一囘目は〈歐州篇〉の第一彈として北歐出身の三人を採り上げます。瑞典(スウェーデン)出身の大女優と申せば、まづグレタ・ガルボ、次いでイングリッド・バーグマンが想起されますが、その轍を踏んで柊林(ハリウッド)デビューを果たしたのが1953年度ミス・ユニバース瑞典代表のアニタ・エクバーグ(Anita Ekberg,1931〜)であります。殘念ながら柊林ではB級物出演が多く、僅かにオールスター物の『戰争と平和』(1956年)が記憶に殘る程度です。然し、其のグラマーぶりが巨女・巨乳好きな伊太利(イタリア)の巨匠フェデリコ・フェリーニの眼に留まり、1959年公開の『甘い生活』に出演、これが生涯の代表作でせうね。フェリーニの愛顧は變はらず、其の後も『フェリーニの道化師』や『インテルビスタ』に出演、1998年にはミシェル・トゥルニエの小説をイヴァン・ル・モワーヌが監督した怪作『赤い小人』に伯爵夫人役で出演して存在感を示しました。
『甘い生活 La Dolce Vita』
イングリット・チューリン(Ingrid Thulin,1926〜2004)はアニタよりも年長。父の生業(なりはひ)は漁(すなどり)であつたと傳へられてゐますが、其の漁師の娘がなにゆゑ幼くしてバレエを習ひ、王立劇場附屬の俳優學校にて演劇を學び得たのか、その經緯を語つてくれる文獻には未だお目にかゝりません。銀幕の世界に進んだ彼女はガルボやエクバーグのやうな柊林行きの道は選ばず、自國の巨匠イングマル・ベルイマンの重用に應へて1957年の『野いちご』を皮切りに『魔術師』『冬の光』『沈黙』『狼の時刻』などに出演、遖れ見事なる女優ぶりを披露しましたが、ベルイマン作品では、舊家の三姉妹間の愛憎を描いた戰慄の映像、さう、1972年の『叫びとささやき』を最高傑作として稱揚したいと思ひます。
此の作の前にイングリッドは、伊太利の―といふより歐州映畫界の巨匠と申すべきルキノ・ヴィスコンティに招かれて、あのナチスvs鐵鋼王國の共喰破滅譚『地獄に墜ちた勇者ども』(1969年公開)に出演し、世界的な名聲も獲得してゐました。此の『地獄に墜ちた勇者ども』と『叫びとささやき』を彼女の行き着いた成果とみて差閊へないでせうが、私が最も惑溺した彼女主演のフィルムは、『地獄に墜ちた勇者ども』で母子相姦を演じた相手役ヘルムート・バーガーと倶に件(くだん)の共演作の地獄繪圖をなぞつた高等ポルノグラフィー『サロン・キティ』(ティント・ブラス監督、1976)であります。本邦初公開は洋畫ポルノ專門のロードショー館で、其の時の邦題は『ナチ女秘密警察/SEX親衛隊』といふおぞましきものでありました。
『地獄に墜ちた勇者ども La Caduta Degli Dei』with Hermut Berger
三人目は丁抹(デンマーク)出身のアネット・ヴァディム(AnnetteVadim,1936〜2005)、舊(もと)の姓はストロイベルグ(Stroyberg)です。惚れた女性をスターに仕上げるのが巧かつた佛蘭西の映畫監督ロジェ・ヴァディムが、1958年、ブリジット・バルドーと離婚した直後に結婚したのが、巴里で雜誌のモデルをしてゐたストロイベルグで、翌年、『危険な關係』で銀幕デビューしました。1960年にジャン・コクトーの『オルフェの遺言』に出演したあと、1961年公開のヴァディム監督作品『血と薔薇 Blood and Roses』に主演、これが代表作ですね。『血と薔薇』はアイルランド人作家ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの名高い吸血鬼小説「カーミラ」の時代設定を現代に移して映畫化したものですが、ヴァディムが米國大手のパラマウントと契約して撮つた作品なので題名・臺詞(セリフ)が英語、共演もハリウッド・スターのメル・ファーラーです。耽美派肌のヴァディムの長所がよく發揮されてゐる作品で、全編に漂ふレスビアン情緒はちよつと類が無いやうに思ひます。然し、此の年に早くもヴァディムと離婚、數年後には映畫界から引退してしまつたので、大女優と稱するのは控へておきませう。
『血と薔薇』
『血と薔薇』アネットとエルザ・マルチネッリ(左)