受贈本紹介

★菅原多喜夫『四谷シモン ベルメールへの旅』 愛育出版
 三十數年來の友人菅原多喜夫さんの處女出版です。
 2010年秋に波蘭ポーランド)のカトヴィツェ(シモンさんが時空を超えて師と
仰ぐハンス・ベルメールの生地)にて開催された《四谷シモンと友人たち、日本に
おけるベルメール》展に立ち會ふ爲にシモンさん共にアシスタントマネージャーと
して渡波なさつた時の旅行記です。
 抑もは歸國直後に書き下ろされたもので、當時贈られた其のコピー本を私は興味
深く拜讀しました。其れが相應の手入れを經て、いま爰(こゝ)に上梓を見たのは
寔に嬉しく慶賀の念に堪へません。ピンクを用ひたキュートで瀟洒な裝幀、寫眞も
澤山載せられてゐます。近々一般書店でも入手可能となるさうです。

山尾悠子歌集『角砂糖の日』 シス書店 LIBRAIRIE6
 長いこと、巷間《幻の歌集》と囁かれて「古書市場では法外な高値」がついたと
いふ、山尾さん若書きの歌集が復刊されました。故あつて論評は差し控へます。
 *少年の智慧は園にて蛇を飼ひ男も飼はむ☆☆☆鏡よかがみ
 *角砂糖角(かど)ほろほろに悲しき日窓硝子唾(つ)もて濡らせしはいつ
 *絵骨牌(ゑがるた)の秋あかあかと午後に焚(た)く烟(けぶ)れば前(さき)の
  世なる紫色(むらさき)


 素敵なおまけ***別刷り栞(四六変型六折)として書き下ろしの掌編「小鳥たち」が
添へられてゐます。これも歴史的假名遣です。
 品の佳い装幀ですが、表紙や背の文字が遠慮がちに過ぎてデジカメでは全容が巧く
撮れませんでした。書店の棚でも見つけにくいのでは……。

★G・K・チェスタートン・作*南條竹則・譯『詩人と狂人たち』 創元推理文庫
『木曜日だった男』に續く、待望の南條版チェスタートン第二弾です。

★新編日本幻想文学集成 第四巻『語りの狂宴』 国書刊行会
 早くも第4巻(夢野久作小栗虫太郎岡本綺堂泉鏡花)の刊行です。
 私は泉鏡花を擔當、「化鳥」「蠅を憎む記」「處方秘箋」「二世の契」「貴婦人」
「印度更紗」「伯爵の釵」「妖魔の辻占」「雨ばけ」「光籃」を撰定しました。

★「幽」vol.26 特集:夢野久作 角川書店

東雅夫下楠昌哉:共編『幻想と怪奇の英文学Ⅱ』 春風社

角砂糖の日(新装版)

角砂糖の日(新装版)

幻想と怪奇の英文学II: 増殖進化編

幻想と怪奇の英文学II: 増殖進化編


 越年の前後から體調を崩し、氣に懸かりながらブログの更新も怠りがちとなり、復調を
見ぬうちに節分・立春を迎へてしまひました。信州に移つて四年の餘となりますが、此の
冬は此れまでで最も寒氣が嚴しいやうに思はれます。此の季節になると、必ず想ひ起して
舌に轉ばせてみる一句があります。

  人の子に美醜はありて寒明けぬ

 一讀茫然とせざるを得ない此の秀句の作者は、昭和最高の閨秀俳人三橋鷹女さんです。
 四十數年前、此の不世出の俳人と何通か書簡の遣り取りをなしえたことなどがあはせて
夢のやうに想ひ起されます。