MY FAVORITE SONGS《番外篇》越後獅子の唄♪あの丘越えて♪明玉夕玉

 5月30日のこと、いつものやうに19時のNHKニュースを見ながら夕食を攝りました。
大抵はニュース終了時に電源を切るのですが、煎茶を淹れに立つた間に次の歌番組が
始まり、あゝ谷原章介が司會をしてるのか……とつい見入つてしまひました。
「うたコン」て番組名は「歌謡コンサート」の省略形とか、舌足らずで馴染めません。
 これは生放送なんですね。最初は小特集で「美空ひばり生誕80年」、VTRで流された
ドラマ仕立の天才少女歌手誕生話は見てゐる方が恥づかしくなるやうな陳腐な演出。
生に戻つて少女時代のヒット曲が2曲、デビュー曲の「悲しき口笛」をドラマに主演
した子役に歌はせてましたが酷ですね。もう1曲、天童よしみの「越後獅子の唄」は
流石に壺を押さへて巧みな歌唱乍ら、四番まである歌詞の二番を飛ばしてゐました。
推するにNHKの、視聽者の苦情・抗議を恐れての措置でせう。越後獅子とは越後(今の
新潟縣)發祥の幼童による大道藝にて、江戸の昔には音曲・舞踊にも採り上げられて
ゐます。Wo Yes(YouTubeに投稿繁きセミプロらしき歌謡集團)の歌唱を貼り附けて
おきますので、お聽き下さい。なぜ歌詞の二番が飛ばされたか……。

 「越後獅子の唄」作詞:西條八十(やそ)、作曲:万城目(まんじやうめ)正
  https://www.youtube.com/watch?v=JtWZNpMMm78&nohtml5=False

越後獅子の唄」は昭和25年の發賣、此の曲あたりから私はリアルタイムでひばりの
歌に接してをり、巧いとは思ひますが、大好きといふ譯ではありません。高音より
低音に移る際に聲が幾分か太くなる、即ち凄むやうな趣が感ぜられるからであります。
 それでも幼兒期に聽いた何曲かは腦の皺に刻みつけられてゐるやうで、今も何かの
折に無意識裏に口遊(くちずさ)むことがあり、2曲ほど音聲を貼つておきます。

「あの丘越えて」作詞:菊田一夫、作曲:万城目正
https://www.youtube.com/watch?v=T6t4FmKqG4A&nohtml5=False 

「あの丘越えて」は 昭和26年の發賣、同名の松竹映画(瑞穂春海監督)の主題歌。
 此の映畫は見ました。共演の鶴田浩二は當時人氣絶頂の二枚目スターでしたが、其の
美しさには一種生々しさが見え隱れして、私の好むところではありませんでした。筋も
在り来りのもので、小兒の私にも慊(あきたりな)く思はれましたが、此の主題歌には
頃日〈孤兒〉といふ存在に憧憬を抱いてゐた私を杳(はる)かな處へ誘(いざな)ふが
ごとき懐しさを覺えたのでした。


「明玉夕玉」作詞:石本美由紀、作曲:上原げんと
https://www.youtube.com/watch?v=NZJhZS0L85w

「明玉夕玉」は二つの眞珠にまつはる物語。原作は少女クラブに連載された中澤■夫
(■は莖から草冠を除去した文字、みちを)の兒童向け伝奇小説です。昭和29年の夏に
ニッポン放送から連續放送劇として放送されました。美空ひばり中村錦之助(後に
萬屋錦之介)が聲優をつとめて人氣を博しました。



 此れに先だち二人は松竹映畫「ひよどり草紙」で初共演を果してゐました。翌30年
早々、東映錦之助主演で人氣沸騰した新諸国物語「紅孔雀」の次の企畫として
「明玉夕玉」の映畫化を決定しましたが、間もなく中止。此れは巷間、錦之助側の
都合と囁かれてゐたやうですが、眞僞のほどは知りません。たゞ、迚もがつかりした
ことはよく覺えてゐます。