郭公・時鳥・文目・芍薬など
先週の中頃、今年はじめて郭公(クワクコウ)の聲を聞きました。
早朝5時過ぎ、たいそう近く聞えたので、北東側の窓を開けて見ると目前の電線に
止まつて啼いてゐます。お向かひの庭の樹木に飛び移つたり電線に戻つたりして5〜
6分も啼き續けてゐましたが、突如聞えた尾長の聲(優美な姿に不似合ひな耳に障る
惡聲)に驚いたのか、東山の方へ飛び去つてしまひました。
御存じでせうが、郭公は東南亞西亞(アジア)から渡來する候鳥で大葭切・百舌・
頰白(ホゝジロ)・尾長などの巣に托卵することで知られてゐます。閑古鳥の別稱も
ありますが、郭公の名は雄の聲に由來します(因みに鳩時計の音は郭公の聲に擬す)。
郭公目・郭公科に時鳥(ホトトギス)といふよく似た鳥がをり、同時季に渡來して
鶯などの巣に托卵する由、鳴聲は異なるやうで、古來、雄は「テッペンカケタカ」と
鳴くと言はれてゐますが、私は聞いたことはありません。異名が多くて杜鵑・杜宇・
蜀魂・不如帰などは中國の故事に由來するものです。和名の漢字表記は時鳥・子規・
死出の田長(シデノタヲサ)・夕影鳥(ユフカゲドリ)・沓手鳥(クツテドリ。坪内
逍遙は大坂落城を仕組んだ歌舞伎狂言「沓手鳥孤城落月」を「ほとゝぎすこじやうの
らくげつ」と訓ませてゐる)など多數。
此のほかに平安朝以來、和歌の世界では「ほとゝぎす」に郭公の漢字を當てゝゐる
例が多く見られます。一例として『新古今和歌集』夏歌巻中屈指の名歌、後京極摂政
(藤原良經)の一首を擧げておきます(引用は岩波文庫版)。
うちしめりあやめぞかをる郭公(ほとゝぎす)啼くやさつきの雨のゆふぐれ
文目(アヤメ)科(昔は射干(ヒアフギ)科と稱す)の花も渡來の獨逸菖蒲に續き
鳶尾(イチハツ)・杜若(カキツバタ)・著莪(シヤガ)・黄菖蒲(キシヤウブ)な
どが見頃になり、追々人氣の花菖蒲も咲き始めることでせう。
芍藥や机のうへの紅樓夢 永井荷風
豪奢な花容を誇る牡丹は大かた散り果てましたが、其の草本版とも申すべき芍薬が
此の邊りでも今を盛りと咲き誇つてゐます。お向かひの大家さんが庭の紅咲き芍薬を
お手づから切つて下さつたので活けてみました。
【大相撲情報】
石浦、宇良(現在10勝2敗)、遠藤は勝ちました。
鯔背(いなせ)な千代の国は奮鬪して流血するも敗北、中々勝てず未だ2勝、殘念。