悲傷の提琴王子

 昨秋のこと、YouTubeでヴァイオリンの獨奏曲を探してゐましたら、眉目秀麗なる
若者の演奏が纏めてUPされてゐるのに出遭ひました。肖像寫眞は鮮明なのですが、
すべてモノクロームで今時の撮影とは趣が異なります。


 演奏家の姓名はPeter Deltchev、名の發音は獨逸語圏ではペーター、英語圏ならば
ピーターでせうが、姓から推量すればスラヴ系ですね。 インターネットで檢索した
ところ、歐文の記事が少々見つかつたものゝ大方はYouTube絡み、あとは同姓同名の
別人の記事ばかりでした。
 獨力では此れが限界ゆゑ、クラシック音樂に滅法詳しくていらつしやる菅原多喜夫
さんに御教示を仰いだところ、次のやうな御返信を頂戴いたしました。

 「お尋ねのヴァイオリニストは、ブルガリア出身のペタル・デルチェフかと思われ
ます。名前のローマ字表記は、ドイツ語圏向けのものなのではないでしょうか。
デルチェフの ローマ字表記は、他にDelcevもあるようです。
  1967年68年と続けて2回、ジェノヴァで開催のパガニーニ・コンクールで第4位と
なっており、その頃17歳〜18歳だったようですので、1950年頃の生まれでしょう。
  その後ブルガリアで活動していたようです。その後、イタリアに亡命し、2004年
以降はヴァイオリンを演奏していないようです。頑健な人ではなかったようです。」

 西歐世界を知つて社会主義政権下の母国を捨てたのでせうが、西歐で成功を収めたと
いふ形跡もありません。此れに加へて「その後の消息は杳(えう)として知れない」と
いふことになれば、シュビンの、といふより森鴎外譯の中篇小説『埋木(うもれぎ)』の
主人公を髣髴とさせる悲傷の樂人として記憶されたかも知れません。然し引き續き畫像
などを探しておりましたら、「2003 in Sofia」といふキャプションの附いた肖像寫眞を
發見、我が妄想も爰にて斷たれたのであります。

https://www.youtube.com/watch?v=eXlLXqZaY48
ジョルジュ・ブーランジェ Georges Boulanger「Avent de」

https://www.youtube.com/watch?v=zt-LcpJZjh8
ヤコブ・ガーデ「ジェラシー」Jealousy

https://www.youtube.com/watch?v=KPh38nKMK0w
ショパン Chopin「ノクターン Nocturne」

https://www.youtube.com/watch?v=UqHAIuuIiXs
サンサーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」
Camille Saint-Saens「Introduction and Rondo Capriccioso」

https://www.youtube.com/watch?v=x_Cj8Tc_w8s
ブラームス「匈牙利舞曲第五番」
Jahannes Brahms「Ungarischer Tanz 5G」

https://www.youtube.com/watch?v=stEIMxWat1c
パブロ・サラサーテチゴイネルワイゼン」ジプシーの唄
Pablo de Sarasate「Zigeunerweisen」

 2003 in Sofia