築地明石町で見かけた木の花

 今週前半、去年の引越で中斷してゐた歯科の治療を終はらせる爲に上京して舊居近くのデンタル・クリニックへ出向きました。往来(ゆきゝ)の途中、聖路加國際病院の構内や築地川公園・あかつき公園(いづれも築地川を埋め立てた跡地、築地川は人工の運河。三島由紀夫の短篇「橋づくし」は此の川が舞臺です)を通つたら、折からの暖氣を享けて花木が一齊に花開いた樣子、寫眞を撮つてきましたので少し御覽に供します。
 樹皮が和紙の原料となる三椏(ミツマタ)は、文字通り三つに分かれた枝の先に花をつけますが、早春に咲く大方の花木が然(さ)うであるやうに葉は未だ出てをりません。三椏や枝垂白梅、またエリカなどは例年なら如月末から彌生初めにかけて咲くのですが、寒さが長引いたせゐで開花が遲れたものとみえます。エリカは歐州の荒地に自生する躑躅ツツジ)科の常緑低木。ericaは羅甸(ラテン)語で、英語ではヒース(heath)と稱へます。ヒースと聞けばエミリー・ブロンテの『嵐が丘』などに連想が及びますが、西田佐知子の「エリカの花散る時」を口遊(くちず)さんでゐた十代の中頃には、エリカとヒースが同じものだなどとは思ひも寄りませんでした。
 染井吉野・山櫻・大島櫻などは未だ三分咲きくらゐでしたが、早咲きの紅枝垂櫻は滿開でした。聖路加病院の周圍は櫻の多い所で、染井吉野が散つた後も種々の八重櫻が咲きます。卯月の後半、薄緑色の鬱金櫻(ウコンザクラ)が咲くと、「いやはてに鬱金櫻の悲しみの散りそめぬれば五月はきたる」といふ北原白秋の一首が想ひ起こされ、何とはなしにメランコリックな氣分に陥つたものでした。

あかつき公園の三椏

あかつき公園の枝垂白梅

聖路加看護大學のエリカ(ヒース)

築地川公園の枝垂櫻