受贈本紹介

大濱普美子『たけこのぞう』

 帶に〈日常のなかに仄めく幽かな異界との交流〉〈夢と現、幻視と写実が交錯する、無気味で不思議な味わいの幻想譚6篇を収録〉とありますが、概ね頷ける惹句であります。
「猫の木のある庭」「フラオ・ローゼンバウムの靴」「盂蘭盆会」「浴室稀譚」「水面」「たけこのぞう」のうち、登場人物の面影がよく顯つのは標題作の「たけこのぞう」、仕掛の手腕が冴えるのは「浴室稀譚」でせうね。各篇の主人公が訪ね當てる目的地までの道行(町並の克明な描寫)とか、屋敷内や屋内の圖面(家の構造などの執拗な説明)などに獨特の感性が觀ぜられます。
 作者は五十代半ばの由、「玄関の格子戸に片手をかけると、すと横に滑って音もなく開いた。僅かな隙間から中に滑り込んで、後ろ手に戸を閉(た)てた。」といふやうな目の詰んだ描寫、とくに「戸を閉てる」などの表現は、現今五十歳以下の人の作品にはもう見られない床しさであらうかと思ひます。一讀をおすゝめ致します。

たけこのぞう

たけこのぞう

内田百間東雅夫編*百間怪異小品集『百鬼園百物語』

怪談専門誌「幽」19號