展覽會【種村季弘の眼】&秋の氣配

 東京の板橋區立美術館にて【種村季弘の眼 迷宮の美術家たち】といふ、没後十年を期した
展覽會が開催されてゐます。
 種村さんに初めてお目にかゝつたのは1969年、澁澤龍彦さんが「血と薔薇」の編輯を降りら
れた頃で、此の雜誌に連載された種村さんの「吸血鬼幻想」は英米系資料(當時まで舶來の怪
異文藝の主流は英米)に加へて獨逸系の資料・史料を驅使した畫期的な吸血鬼論考であり、私
が吸血鬼物に手を初める契機となつたのであります。あの頃の種村さんは都立大學で獨文學を講ずるかたはら著述を發表、其れに脂が乘り始めたやうに見受けられました。お住まひの晴海の公營アパートを訪ねたこともありますが、此れは少し後のことで、初めての拜眉の用向きや場所が何(ど)うしても思ひ出せません(當時の手帳を繰れば分かる筈ですが……)。刊行間もない『ナンセンス詩人の肖像』を頂戴したことは覺えてゐます。引き續き『吸血鬼幻想』や譯著『象徴主義と世紀末芸術』も御惠投に與かり、貪るやうに拜讀したと想ひ返されます。
 今囘の展覽會は、長く種村さんに親炙された柿沼裕朋さん(NHK-TV「新日曜美術館」ディレクター)の監修に成るものですが、圖録として刊行された『種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』は所謂(いはゆる)美術展圖録とは趣の異なる書籍(A5判)タイプでありまして、一般書店でも購入出來ます。柿沼さん×松井純さん(平凡社)コンビ入魂の書物と申せませう。お送りいたゞいたので、書影を載せておきます。展覽會の内容に就いては下記の記事(美術館サイト記事の摘要)を御覽下さい。


種村季弘の眼 迷宮の美術家たち

種村季弘の眼 迷宮の美術家たち

会期:9月6日(土)〜10月19日(日)板橋区立美術館(東京都)
開館時間 :9:30〜17:00 (入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし9/15、10/13は祝日のため開館し、翌日休館)
観覧料:一般650円 高校・大学生450円 小・中学生200円
*65歳以上の方は半額割引(325円、要証明書)あり。
*土曜日は小・中・高校生は無料で観覧できます。
*20名以上団体割引、障がい者割引(要証明書)あり。

監修:柿沼裕朋
主催:板橋区立美術館読売新聞社、美術館連絡協議会

展示点数:油彩・水彩・版画・写真・彫刻など 約160点
(出品作品は予告なく変更になる場合があります。) 

 種村季弘(たねむらすえひろ/1933年〜2004年)は池袋に生まれ、板橋区の東京都立北園高等学校を経て、東京大学文学部に学んだドイツ文学者です。彼は、1966年にグスタフ・ルネ・ホッケの『迷宮としての世界』(矢川澄子と共訳)の翻訳をもって、日本でのマニエリスムブームの火付け役となりました。その後、博覧強記ぶりを遺憾なく発揮し、エロティシズム、錬金術、吸血鬼など、様々なジャンルを横断して、批評活動を行います。
 美術批評では、「月の道化師 ゾンネンシュターン」「カール・コーラップ 魔法の国の建築家」などと題して、当時馴染みの薄かったドイツ語圏の作家たちを精力的に紹介しました。また、画家の井上洋介赤瀬川原平、舞踏家の土方巽をはじめ、種村が共感を覚えた日本の芸術家に対しても積極的に文章を寄せました。それらは、いずれも種村ならではの鋭い鑑識眼に貫かれています。本展は、国内外から作品を集め、種村季弘の眼を通して創造された美術の迷宮を「夢の覗き箱」「没落とエロス」「魔術的身体」「顛倒の解剖学」など、7つのキーワードで辿る初の試みです。

【主な出品作品】
四谷シモン《シモンドール》(初公開)
トーナス・カボチャラダムス《バオバブが生えたかぼちゃの方舟》個人蔵(初公開)
今道子種村季弘氏+鰯+帽子≫ 個人蔵
エドワード・リア『ナンセンスの本』1846年初版 個人蔵
秋山祐徳太子《父の肖像》個人蔵 (初公開)

マックス・エルンスト《ニンフ・エコー》新潟市美術館
桑原弘明《Scope「詩人の椅子」》種村季弘旧蔵
フリードリッヒ・シュレーダー=ゾンネンシュターン《おんどりのいる形而上学
 浅川コレクション(足利市立美術館寄託)
カール・ハイデルバッハ《二体の人形》個人蔵
ホルストヤンセン《ミリー》個人蔵
井上洋介《食事A》刈谷市美術館蔵
エルンスト・フックス《サミュエルの娘》個人蔵
カール・コーラップ《頭》個人蔵
エーリヒ・ブラウアー《かぐわしき夜》新潟市美術館
美濃瓢吾《花下臨終図Ⅰ》個人蔵
土方巽舞踏公演〈土方巽と日本人?肉体の叛乱〉8ミリフィルム映像》(撮影:中村宏) NPO法人舞踏創造資源



《秋の氣配》

 此のところ、朝晩は涼しいといふより肌寒いくらゐで、急速に秋めいてきました。近所の家の庭で曼珠沙華が咲いてゐるのを見かけたので、昨年採つた草地へ出向いてみましたが、お彼岸には未だ間があると申すのに、花は既に枯れ落ちてゐました。致し方なく傍に生えてゐた芒と吾亦紅を採取して來て活けてみました。

 近邊水田の稻穗も垂れ始めてをり、刈り入れの時も間近いことでせう。

 駐車場の隅にジャーマンアイリスの返り花を發見、異常氣象に騙されて咲いてしまつたのかも……。

 外廊下の手摺に絡ませた西洋朝顔(去年露臺の手摺に絡ませたものから採取した種を蒔きました)と風船葛は未だ咲き續けてゐます。

 今朝の冠着山(姨捨山)