「ユリイカ」8月号▽特集《新しい短歌、ここにあります》


 久しぶりに短歌に就いて記しました。
 題して「歌文半世紀〜幻の夢をうつゝに見る人は☆序章」
 イケメン特集の時に聲をかけて下さつた、それこそイケメン藝能人のやうな
お名前の明石陽介さんから「須永さまご自身のご経験としての短歌と時代との
関係、そこからさらに幻想文学とのかかわり、絢爛にしてしかし、そればかり
ではない短歌の時代についてお書きいただけないかと考えております。特に幻
想文学と短歌、あるいは創作それ自体のつながりには、個人的にも大いに興味
を惹かれるところでもありますし、ご助力いただければうれしく存じます。」
といふメールをいたゞきました。
「お申し越しの件、何とか書いてみませう。私も到頭七十歳に達し、強靱と思
つてゐた記憶の帶の其處此處に蟲喰ひの痕が目立つやうになりましたので、
此の邊で確認しておかうと考へる次第であります。私は1966年、廿歳の春に
塚本邦雄先生から師事する事を許され、以後六年間、短歌のみならず文藝全般、
また音樂・映畫・美術等々に亙つて筆舌に盡せぬほどの教へを賜はりました。
結局私は歌壇なるものに馴染めず、先生の許を去り、散文に途を求めて今日に
至つた譯ですが、先生の御紹介で識ることを得た先輩、歌人俳人・詩人・作
家・畫家たちも、今や皆さん逝かれて、お元氣なのは四谷シモンさん、相澤啓
三さん、高橋睦郎さんぐらゐでせうか。金子國義さんや中井英夫さんに就いて
は機會を得て記すことを得ましたが、個々にではなく一つの時代(1965〜75年)
の群像として捉へてみたいですね」云々といふ返信を送りました。
 冷靜に考へれば、今の私の能力では斯樣な事を僅か十數枚に纏めるなどは
出來ない相談であり、此の時は恐らく正氣を失つてゐたのだらうと思はれます。
押入にぎつしりと詰まつた段ボール箱を片端から開けて其の昔の資料を捜して
ゐたら熱中症に罹つてしまひ、締切を前にして焦りも加はつて、兎も角も打ち
始めたのですが、案の定、發端から幾程も進まぬところで指定枚數に達して
しまつたのであります。打ち直す時間は無いので、タイトルの末に「序章」と
附すことで明石さんに収めていたゞきました。
 續きは此のブログにでも連載するか、または書き下ろし(現在6點も抱へて
ゐるのによく言ふよ)で纏めるか、自信はありませんが、左樣なことも考へて
をります。

 己の事ばかり記しましたが、特集の内容は下にコピペして御覽に供します。
 執筆者は殆ど面識の無い方ばかり、岡井さんには一度お目にかゝつた記憶が
あります。井辻さんには舊著『ルートヴィヒⅡ世』執筆の折に御助力をいたゞ
きましたが、當時から大変な才媛でいらつしやいました。
 黒瀬さんには『黒耀宮』を上梓された頃に何度か會つてをります。築地明石
町の舊居に見えたこともありました。お召しになるものも獨得で、美しい方で
したね。特にプロフィールが素敵で後に
「所在なき夜に偶(ふ)と憶ふ横貌の美しかりし珂爛よいづこ」
などと詠んだことがございます。

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ユリイカ2016年8月号 特集=あたらしい短歌、ここにあります
定価本体1300円+税/発売日2016年7月27日/ISBN978-4-7917-0312-8

■対談
ささやかな人生と不自由なことば/穂村 弘 最果タヒ

■短歌/イラスト
愛たいとれいん/雪舟えま

■新作5首
舟の尾/俵 万智
あんぐり五首/巻上公一
平成私事/戸川 純
ミヤネ屋を見る/斉藤斎藤
解散主義/瀬戸夏子
蕩児/結崎 剛
共喰いする鳩/井上敏樹
書物物語/福永 信
胸ときめいて/木下古栗
記憶を浚うとふと底にざらつく、日々の澱/ミムラ
世田谷の善き友たち/壇蜜
片目で語れ/DARTHREIDER a.k.a.Rei Wordup
花を枯らさないための暮らし/澤部 渡
生きていないわたし/雨宮まみ
双極卍解/わたしはくたばりたくない/ルネッサンス吉田

■共作
あの声とあの恋/木下龍也+尾崎世界観

■ある歳月の記憶
短歌と非短歌の歌合 詠むことの永遠と新しさについて/
  岡井 隆 聞き手=東直子
歌文半世紀 幻の夢をうつゝに見る人は☆序章/須永朝彦
マルシェとしての『かばん』 遊びをせんとや/井辻朱美
短歌の新しさ/加藤治郎
インターネットと短歌/荻原裕幸

■うたびとたちの現在地
共感は時空を超えて/鳥居 聞き手=編集部
比較の詩型 そして比較できないもの/吉川宏志
カラスウリの花と顕微鏡/永田 紅
〈それ以後〉の空/井上法子
またいつかはるかかなたですれちがうだれかの歌を僕が歌った/
 枡野浩一 佐々木あらら
そのオモチャ箱には念力家族が入っていた/佐東みどり
僕が「君」のことを詠う理由/鈴掛 真
純粋病者のための韻律/梅粼実奈

受肉する詩歌
□街のみる夢 『月に吠えらんねえ』の世界/清家雪子 聞き手=黒瀬珂瀾

■三十一文字のポエティクス
タブーのない短歌の世界を 「歌会始」を通して考える/内野光子
現代詩と短歌 翡翠少年/藤井貞和
《教養》としての《性愛》/石井辰彦
文体は、あなたである。  主に正漢字を巡って/黒瀬珂瀾
現代短歌とフランス文学 抒情詩の〈私〉をめぐって/吉田隼人
たたたたたたた魂の走る部屋 歌会とコミュニケーションについて/石井僚一

■資料
あたらしい短歌のキーワード15/石川美南+山田 航