BOTANICAL ART ①

 先週半ば以後、外氣温が漸く10度を上囘るやうになり、其れにつれて感冒もぬけてゆきました。晝夜の寒暖の差はまだ大きいのですが、當地の天氣豫報によれば明日は春の陽気となるとか……。そこで、本日は未だ來ぬ春に想ひを馳せて、歐米の植物畫から氣に入りのものを撰び、御覽に供します。

瑠璃繁縷(ルリハコベ):ウィリアム・モリス

紫丁香花(リラ) Lilas:1833

苧環(ヲダマキ) Columbine

アネモネ Anemone vitifolia:1836

白芍藥 White Peonies:Mia Tarney

罌粟 Poppy-passion:1394

西洋菖蒲(イリス)Iris:アルプレヒト・デューラー

睡蓮と河骨 Water Lilies:Jan Voerman Jr.

黒蓮華 Black Lotus:クリストファー・ラーン

サフラン Colchicum:Jan Voerman Jr.

【註】犬サフラン彼岸花科(百合科とする分類もある)の球根草本なので、文目(アヤメ)科のサフランとは何の關係もありません。相(すがた)は大振りで然(さ)ほど似てゐるとも思へません。園藝種苗會社では〈コルチカム〉の名で販賣してゐます。其の邊に球根を投げ出しておいても秋(10月頃)至れば花を咲かせます。曼珠沙華の仲間なので、花莖のみ出して葉を出すのは春になつてからです。
 サフランには漢字を當てた表記がありますが、一般的なワープロでは〈?夫藍〉としか打てません。〈?〉は三水(さんずい)に〈自〉と書きますが、印字稿にペンで書き入れて出版書肆に渡してもゲラには〈泊〉と誤植されて返つてくることが多かつたですね。其の昔、森鴎外(カモメの正漢字も出ない!)は「サフラン」と題する短いエッセーの中で「……音譯に漢字が當て嵌めてある。今でも其字を記憶してゐるから、ここに書いても好いが、サフランと三字に書いてある初(はじめ)の一字は、所詮活字には有り合せまい。」云々と記してゐます。
 一昨年(をとゝし)の秋、善光寺を訪れた折、境内にて犬サフランを見かけました。寫眞が殘つてゐたので載せておきます。