魅惑の映像★『白夫人の妖恋』山口淑子&八千草薫

 暫く他出して戻りましたら既に彌生、中々融けなかつた日陰地の雪もすつかり消えてをりました。昨日今日は氣温が15度を上廻り、暖房も不用であります。このまゝ春になるとは思へませんが、寒氣は徐々に緩むことでせう。梅の花もちらほら、落葉樹の芽も膨らみ始めました。當地で櫻が開花するのは4月10日前後の由、東京より1週間餘り遲いやうです。その前に金縷梅(マンサク)・山茱萸サンシュユ)・三椏(ミツマタ)・辛夷(コブシ)・桃などが次々と咲く筈です。啓蟄も過ぎましたが、これは新暦ゆゑ、昆蟲や爬蟲の類が出て來るには今少し時間を要します。ちよつと早めではありますが、本日の《FAVORITE》は蛇にまつはる映畫のスチール3點です。

 50歳以下の方は、もう山口淑子のことは御存じないかも知れませんね。戰前戰中は李香蘭(リコウラン)と稱し、女優・歌手として大陸で活躍、日中兩國の言葉を巧みに操り、日本でも人氣をあつめました。終戰後に歸國、本名に復して藝能活動を再開、多くの歌を吹き込み、數多の映畫に主演、一度は引退するも10年後にはワイドショーの司会者として復歸、更には參議院議員に當選、長きに亙つて勤めてゐます。
 私がリアルタイムで初めて觀た山口淑子の主演映畫は『白夫人の妖恋』です。1956年、10歳の時でした。豐田四郎が、林房雄の短篇小説「白夫人の妖術」を映畫化したもので、確か円谷英二が特撮監督に當たつてゐる筈です。林の小説は無論、中國の〈白蛇傳〉、具體的には明(ミン)代の白話(口語體小説)「白娘子永鎭雷峯塔」「雷峯怪蹟」などに據つたもの。これは新潮文庫に入つてゐたので、高校生になつてから讀みました。
 少年の私は、妖婚譚とも申すべき傳奇色豐かな展開にまづ惹きつけられ、次いで妖怪の主従に扮した山口淑子(白娘)と八千草薫(小青)の美しさに魅了されたのだと思ひ返されます。八千草は今も現役ですが、當時は寶塚歌劇團をやめて映畫界へ移つたばかり、其の楚々たる美貌は東映ジャリ向け映畫のスター達(中村錦之助東千代之介・伏見扇太郎など)に夢中だつた私の心をも捉へたのであります(東映動画の『白蛇伝』も觀ましたが、こちらはドキドキするやうなことも無かつたですね)。
 大詰で白娘(パイニャン)と對決する法海禅師には徳川夢聲が扮して貫禄を見せ、他にも東野栄治郎・田中春男清川虹子左卜全・上田吉二郎などの藝達者が脇を固めてゐましたが、白娘に魅入られる若者許仙を演じた池部良は私の好みの外で、友達相手に不滿を鳴らしたことを覺えてゐます。成人後にTV放映を觀る機會を得ましたが、豐田の監督作品としては物足らぬ點も多々あり、同じ題材に據るものとしては1993年に香港で公開されたツイ・ハーク監督、ジョイ・ウォン主演の『青蛇転生』の方が優れてゐるやうに思ひます。此の映畫は日本未公開、ビデオのみ發賣されました。『青蛇転生』はビデオ版の標題にて、原題は『青蛇』、英語題は『Green Snake』であります。ジョイ・ウォンは、我が友南條竹則さん御贔屓の女優さん、映畫雜誌で對談までなさつてますよ。

『白夫人の妖恋』山口淑子八千草薫

『青蛇転生』