受贈本紹介

南條竹則『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』

 2000年に《集英社新書》の一冊として刊行された『恐怖の黄金時代』の増補改訂版であります。現今日本に於ける英國恐怖小説(19世紀〜20世紀中頃)の泰斗は誰か、愛・情熱・實績(研究&翻譯)、其の孰れをみても、南條さんの右に出る人はゐないと思ひます。此のたびの大幅に増補改訂された四六判は、幻想怪異文藝を愛する方々へのこよなき贈り物でありませう。

南條竹則譯・ブラックウッド『人間和声』

 待望久しきアルジャーノン・ブラックウッドの長篇、名手による本邦初譯の登場であります。『怪奇三昧』に詳しい紹介がありますので、引用して御參考に供します。

〈……主人公の青年ロバート・スピンロビンは、何か冒険を約束してくれるような仕事を探して新聞を見ていたところ、一風変わった求人広告が目に入った。フィリップ・スケールという引退した牧師が秘書を求めているのだったが、採用の条件は、「テノールの声とヘブライ語に関するいささかの知識」だった。スピンロビンは興味をひかれて、広告主のスケールに手紙を書き、会いに行く。
 スケールはウェールズの片田舎に、年老(としと)った家政婦モール夫人とミリアムという若い姪と三人で住んでいる。大柄で、厚みのある声と圧倒的な存在感を持った人物だ。彼は「音」に関する研究をしており、そのためにある音域と特性の声を持つ人間が必要なのだという。
 スピンロビン青年は秘書としての適性を試すため、スケールの家に滞在する。やがて明らかになってきたことは――スケールはじつは、言葉の持つ神秘な力を研究しているのだった。彼によればヘブライ語の多くが、この世界と「未知のはかりしれない力」との懸橋を渡す力を持っている。諸々の天使の名は偉大な力を象徴していて、その名を正しく発音することにより、天使たちを呼び出すことができる。スケールはすでにそれを試み、種々の超人的な能力を手に入れていた。だが、彼が目ざしているのは、すべての名前の中でもっとも強い力を持つ名前――ほかでもない、言うべからざる造物主の御名(みな)を唱えることである。それには単独の声ではなく、ととのった和音が必要だ。バス、テノール、アルト、ソプラノ――スピンロビンはテノールのパートを受け持つために招かれたのだった……
 ブラックウッドの長篇はややもすると散漫になりがちだが、この小説はそんな欠点を免れ、荒涼たる山中の館で秘密が明かされてゆくスリルに満ちた筆法といい、四人が禁断の名を唱えようとするクライマックスの迫力といい、間然(かんぜん)するところがない。〉

菊地秀行『魔海船2 女戦士ジェリコ

 2月に出た新シリーズの第二篇。仕事がお早い!

◎安藤和男『なつかしき』

 往昔(そのかみ)、何冊か著作出版を擔當して下さつた編集者の歌集です。往時は短歌に興味を示すやうなことは無かつたのに……。個人的懐舊の趣が濃いですね。

怪奇三昧 英国恐怖小説の世界

怪奇三昧 英国恐怖小説の世界

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

人間和声 (光文社古典新訳文庫)

歌集 なつかしき―昭和十六年生まれの風景

歌集 なつかしき―昭和十六年生まれの風景