東京滯在略記

 12日:豫定通り、東京へ出かけました。感冒はまだ完全には抜けきらず、腰痛も治らぬまゝ……といふ體でありましたが、着いてみると腰痛が少し治まつてゐて、無事滯在先の吉村明彦さん宅に辿り着き、その晩はゆるりと休ませていたゞきました。JR線はほゞ滿員、久しぶりに見る澁谷驛近邊の人波に臆する私でありました。

 13日:午前中に雜用を濟ませ、午後は中央線沿線に出向き、中野で村上佳子さん(郡司正勝先生のお嬢さん)、吉祥寺で稻田雅子さん(フリーランスの編輯者)に會ひ、一年ぶりの〈お喋り〉。歸途は神谷町まで行かれる稻田さんと御一緒に井の頭線に乘つて澁谷まで、東京在住時は偶に利用したものゝ全線乘り詰めは初めてかも知れません。

 14日:正午、丸の内の出光美術館にて柿沼裕朋さん(NHKディレクター)と待ち合はせ、《江戸の狩野派〜優美への革新》展を鑑賞。此の美術館は舊居(築地明石町)から近かつたので、よく見物に出向きました。館藏品の展示ゆゑ、過去に見た繪も多かつたのですが、何度見ても佳い繪が數點ありました。銀座へ出ましたが、土曜日ゆゑ中央通りは歩行者天國で大變な人出、喫茶店などは何處も彼處も滿員の樣子、ひよつとしたら坐れるかもと踏んで松崎煎餅二階の喫茶室を覗いたら少なからぬ空席があり、定番の〈煎茶&餅菓子〉を註文、9ヶ月ぶりに柿沼さんと歡談することを得ました。
 午後5時から吉村邸にて〈倶楽部トランシルヴァニア〉の忘年會。服部正さん、礒崎純一さん、南條竹則さん、小川功さんが少々の間を置いて到着、最後に東雅夫さんが見えて全會員が揃ひました。南條さん、小川さん、東さんに會ふのは一年ぶりです。皆さんが語る最近の出版界の動靜、国書刊行会ちくま文庫のこれからの出版企畫などに耳を傾けました。青山の紀伊國屋で需めたといふ、服部さんお持たせの鶏の丸燒きの美味しかつたこと!

 15日:正午過ぎ、吉村さんを誘つて六本木ミッドタウンのサントリー美術館まで出かけ、開催中の《天上の舞 飛天の美》を鑑賞しました。
 チラシに曰く「空を飛び、舞い踊る天人は〈飛天〉と呼ばれ、その優美な姿は、浄土世界の表現として、インドから中央アジア、日本にわたって広く表されてきました。(中略)本展は、日本の古代から中世の飛天を中心に、浄土において奏楽・舞踊する姿や、現世に来迎する姿へ展開など、さまざまな飛天の姿を浄土図や荘厳具類などに見られる浄土の表現も交えながら、彫刻・絵画・工芸にわたって広く展観するものです。……」云々。
 大修理中の宇治平等院鳳凰堂の飛天像を間近に觀られるのが何よりと思ひました。奏樂飛天像の中に簓(さゝら)樣の樂器を奏でるものあり、暫し見蕩(みと)れてしまひました。
 見終つて外へ出たあと、美術館入口まで出向いて下さつた飯田克比呂さん(我が電脳教授)から、ミッドタウン内のカフェで輕食を攝りながら、先日怪しきフリーズ状態に陥つた私のPCの扱ひに就いて御助言をいたゞきました。

 《天上の舞 飛天の美》展

 16日:滞在中、東京はずつと好天でした。午前11時半過ぎ、吉村邸を辭して東京驛へ。13時04分發の長野新幹線に乘車、上田にて〈しなの鐵道〉に乘換へ15時過ぎに千曲着、無事歸り着きました。積雪こそ無かつたものゝ、東京とは比べものにならぬ寒さ、これから先が思ひ遣られます。