牡丹頌:蕪村&晶子

 昨日朔日の早朝、郭公(クワクコウ)の聲を聞きました。少年時代以來のことです。あの託卵で名高い鳥であります。大葭切(オホヨシキリ)や鵙(モズ)頬白(ホゝジロ)尾長(ヲナガ)などが營む巣に卵を産みつけ巣の主に育てさせる……。千曲川に葭切の巣があるのでせうか、鵙や尾長の惡聲はよく耳にするのでターゲットは此方(こつち)かも知れません。今朝も鳴いてゐました。勅撰集時代の和歌では郭公と書いて「ほとゝぎす」と訓ませる例が多いのですが、同じ郭公科の鳥ながら鳴聲は全く異なります。杜鵑(ホトトギス)の鳴聲は「テッペンカケタカ」と聞こえると言はれてゐますが、私は聞いたことがありません。

 皐月は牡丹の季節でもあり、此處に載せようと寫眞を澤山撮つておきました。早や水無月にて出し遲れの恰好ですが、折角撮影したものですから、少しお目にかけませう。
 私などの若かりし頃は、毛莨科(ウマノアシガタ科、或はキンポウゲ科)に分類されてゐたのですが、その後、新しく牡丹科が立てられ牡丹屬の基幹植物となつてゐます。中國原産の渡來種で、最も古い園藝植物の一つであります。江戸時代には400を越える品種が作られ、牡丹の名所なども出現してゐます。

 黄牡丹

 紅牡丹

 白牡丹

 緋牡丹

 平安時代に渡來してゐます(『枕草子』に名が見える)が、和歌にはあまり詠まれてゐませんね。牡丹を好んで吟じ詠んだのは、近世の俳諧師與謝蕪村、その蕪村を「天明の兄」と呼んで敬慕した近代第一の閨秀歌人與謝野晶子です。二人の集から些かを引いておきます。

   *蕪村 吟
 方百里雨雲よせぬぼたんかな
 蟻王宮朱門をひらく牡丹かな
 ぼうたんやしろがねの猫こがねの蝶
 虹を吐いてひらかんとする牡丹かな
 金屏のかくやくとして牡丹かな

  *晶子 詠
 眼のかぎり春の雲わく殿の燭およそ百人牡丹に似たり
 大きなる牡丹よ王の都なる南の門と云ひつべきかな
 牡丹うゑ君まつ家と金字して門(かど)に書きたる晝の夢かな
 かざしたる牡丹火となり海燃えぬ思ひみだるゝ人の子の夢
 白牡丹さける車のかよひ路に砂金しかせて暮を待つべき