郡司正勝『鶴屋南北』復刊
長らく絶版になつてゐた郡司先生晩年の名著『鶴屋南北』(中公新書)が出版書肆を
變へて、此のたび講談社学術文庫より裝ひも新たに刊行されました。
国立劇場等に於て『櫻姫東文章』1,『阿國御前化粧鏡(おくにごぜんけしょうのすが
たみ)』2,『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』3,『貞操花鳥羽恋塚(みさお
のはなとばのこいづか)』4.『法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)』5,
など上演の絶えてゐた南北の狂言の復活上演にも盡力された先生が南北研究の仕上げと
して書き下ろされた瞠目すべき南北論であります。此の機會に是非お讀み下さいまし。
1.〈清玄櫻姫〉の世界。上方の話を江戸に書替へたので外題に東文章と謳つてゐます。
南座・新橋演舞場・歌舞伎座・メトロポリタン歌劇場でも上演され、坂東玉三郎の
當り狂言となつたのは周知の通りです。
2.〈東山〉の世界。大和國佐々木家の御家騒動,一番目では怨み死にした後室阿國御
前が美しき亡靈と化して跳梁、二番目には阿國御前の怨みを引き繼ぐ者として累
(かさね)が登場するといふ作劇、時代世話一本立ての怪談狂言です。原作に無い
帯解野(おびとけの)の場を設へ、あの六世歌右衛門が宙乘りを演じました。
3.舊(もと)は〈薩摩歌〜小まん源五兵衛〉の世界で、上方狂言『五大力戀緘(ごだ
いりきこいのふうじめ)』の書替ですが、何と『四谷怪談』の後日談の體(てい)。
4.〈源平盛衰記〉の世界に見える戀塚傳説を南北流に書替へたもの。此の復活上演で
は故團十郎(現・海老藏の父)が崇徳院に扮して宙乘りを見せました。
5.〈祐天記〉の世界。累(かさね)の怪談が織り込まれてゐます。二番目序幕は
あの淨瑠璃所作事、清元の「色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)」です。
鶴屋南北 かぶきが生んだ無教養の表現主義 (講談社学術文庫)
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